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2025.09.28日本脳炎ワクチンの開始時期 ー6か月からを推奨ー
日本脳炎の感染経路
日本脳炎は、蚊が媒介する日本脳炎ウイルスによる感染症です。日本脳炎ウイルスは、ブタの体内で増殖します。このウイルスを保有するブタを蚊が刺して、その蚊がこのウイルスに感染します。そして、その蚊が別のブタを刺してそのブタが感染します。このように、次々に感染を広げ、その中で蚊がヒトを刺すことで、ヒトへの日本脳炎ウイルスの感染が成立します。ヒトからヒトの感染はありません。
日本脳炎ワクチンの
接種開始時期
日本脳炎ワクチンの接種時期は、生後6か月から接種できますが、標準時期は「3歳から」、と日本小児科学会で言われています。ですので、当院も今までは「3歳から」の接種でスケジュールを組んでいました。
日本小児科学会
からの推奨
しかし、2016年に、日本小児科学会から、
日本脳炎罹患リスクの高い者に対する生後6か月からの日本脳炎ワクチンの推奨について
という推奨が出て、日本脳炎流行地域に渡航・滞在する小児、最近日本脳炎患者が発生した地域・ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児に対しては、生後6か月から日本脳炎ワクチンの接種を開始することが推奨されるようになりました。日本脳炎の発生地域
最近の報告では、熊本県で2006年に3歳児(ワクチン未接種)、熊本県で2009年に7歳児(ワクチン未接種)、高知県で2009年に1歳児、山口県で2010年に6歳児、沖縄県で2011年に1歳児、福岡県で10歳児、兵庫県で2013年に5歳児、千葉県で2015年に11か月児、2023年は千葉県、茨城県、静岡県、大阪府、熊本県から症例が報告されています。報告例があった千葉県では、6か月からの接種が広く推奨されているようです。
広島県のブタの
日本脳炎抗体保有状況
ブタの日本脳炎抗体保有状況をみると、日本脳炎ウイルスは西日本を中心に広い地域で確認されていますが、広島県は以前までは抗体保有率は高くありませんでした。
しかし、2024年9月の調査で広島県のブタの日本脳炎抗体保有率が100%になりました。
広島県感染症・疾病管理センター 「日本脳炎の感染にご注意ください」
すなわち、広島県は、日本脳炎罹患リスクが高い地域 = 生後6か月から日本脳炎ワクチン接種が推奨される地域、となったのです。以前は「3歳から」
日本小児科学会の日本脳炎ウイルス開始の標準時期は、「3歳から」になっていますが、実はこの「3歳から」には医学的根拠がありません。以前は、日本脳炎の発症が3歳未満に少なかったり、1歳未満は他の予防接種があり日本脳炎まで入れるとスケジュールが煩雑になる等の理由のために、「3歳から」になったと言われていますが、医学的根拠はないようです。
「6か月から」でも、
「3歳から」でも、
効果は変わらない
ただ、「6か月から」接種した場合、「3歳から」接種に比べ予防効果が落ちるのでは、という心配がありますが、
Immunogenicity of live attenuated SA14-14-2 Japanese encephalitis vaccine–a comparison of 1- and 3-month immunization schedules. 1998 · Theodore F. Tsai, Yong-Xin Yu, Jia Li Li
この研究にあるように予防効果が同等であることが報告されています。
ですので、「6か月から」接種し始めても早すぎることはありません。
逆を言えば、3歳まで接種を待つメリットもありません。
広島市内の小児科でも、すでに「6か月から」接種しているクリニックも見られ始めました。まとめ
以上をまとめますと、
・これまでは、日本脳炎ワクチンの接種は「3歳から」開始が標準的でした。
・しかし、小児科学会からは、最近日本脳炎患者が発生した地域・ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児に対しては、「6か月から」開始することが推奨されています。
・広島県は、2024年9月の調査で、「ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域」となりました。
・以上から、当院では、日本脳炎ワクチン接種は「6か月から」開始を推奨します。
日本脳炎ワクチン
スケジュールの1例
第1期初回
1回目:6か月時
2回目:7か月時
(B型肝炎3回目と同時接種。1回目と6日以上間隔をあける)第1期追加 1歳6か月頃
(水痘ワクチン2回目と同時接種)第2期: 9歳から13歳未満
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2025.08.31第9回 痛くない点鼻のインフルエンザワクチン(フルミスト)
痛くない点鼻の
インフルエンザワクチン
(フルミスト)
フルミストは鼻にスプレーするタイプのインフルエンザの生ワクチンです。
海外では2003年から使われており、日本でも昨シーズンから使用可能となりました。
今シーズンから当院でも導入します。メリット・デメリット
これまでの注射のワクチンと比べて、メリット・デメリットをお伝えします。
【メリット】
・接種が1回で済む。注射ワクチンは2回必要(6か月以上13歳未満)
・痛みがない。
・効果が半年間~1年間続く。注射ワクチンは約5か月間。インフルエンザウィルスは、通常鼻腔から侵入しますが、点鼻のワクチンはその鼻腔に直接免疫をつけることができるので局所免疫が強化され発症予防効果が高いと言われています。
【デメリット】
・対象年齢が限られる。(2歳~19歳未満)
・注射ワクチン2回分よりも費用が高め。
・鼻閉がある場合、効果が十分に発揮されない可能性がある。
・接種後、約60%で鼻漏・鼻閉などがみられます。また、咳、のどの症状、発熱など、インフルエンザの軽い症状がでることもあります。その他の注意点
・接種当日に、鼻づまりや鼻汁がある方、接種時に泣いてしまう方は、効果が減弱する可能性があるため、鼻汁が出やすい方は注射のワクチンをお勧めします。
日本小児科学会では、下記の方は、点鼻のワクチンではなく、注射ワクチンが推奨されています。
・喘息の方
・妊婦
・授乳婦
・免疫不全者、無脾症患者、(点鼻のインフルエンザワクチンは、周囲へのワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため)
・ゼラチンアレルギーを有する方、 -
2025.07.25第8回 カゼの咳や鼻汁をすぐに止める特効薬はありません。
20年以上前、医者1年目の僕が初めて外来診察をする時、ある先輩から教えてもらったことがあります。
「カゼの子には抗生物質と、アスベリン・ムコダイン・ペリアクチンをとりあえず処方しとけばいい。」と。
これはこの先輩だけではなく、昔の日本全国共通のお決まり処方セットだったようです。しかし、僕たち世代が今の若い先生の指導医になってからはこのような指導はしていません。医学的根拠がないからです。
アスベリンは、咳止め薬として日本で50年以上前からある古い薬ですが、海外では承認されていません。しかも、イヌ・ウサギ・ハトで効果があったデータはありますが、ヒトに効果があった医学的データはありません。つまり科学的・医学的根拠はないのです。
ムコダインは、咳や鼻汁を止める効果はありませんが、痰や咳、鼻汁を出しやすく、切れやすくする効果があります。症状を和らげてくれます。
ペリアクチンなどの抗ヒスタミン剤は、アレルギー性鼻炎には有効ですが、ふつうのカゼの鼻汁に効くという医学的データはありません。カゼの鼻汁に効くと昭和の日本では考えられていましたが、それは、抗ヒスタミン剤は鼻粘膜を乾燥させるので、鼻汁がねばくなり、見た目は鼻汁が減ったようになるからです。しかし、鼻汁がねばくなると鼻がつまって夜眠れなくなったり、痰もねばくなって、痰がらみの咳が続きます。副作用があり、脳に直接作用して、眠気、錯乱、幻覚、けいれんなどがあります。鼻汁に抗ヒスタミン剤が使われるのは日本だけのようで、アメリカでは2歳未満へは使用しないよう勧告がでています。
<副作用の注意すべき抗ヒスタミン剤>ペリアクチン、ポララミン、ザイザル、ザジテン(ケトチフェン)、セルテクト、ポララミン、ゼスラン/ニポラジン(メキタジン)、ジルテック(セチリジン)、クラリチン など
カゼの咳や鼻汁を止める特効薬はなく、アスベリンやペリアクチンなどが効く医学的根拠はなく、むしろ副作用が心配です。
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2025.07.10第7回 かぜの咳は薬ではとめられません
かぜの咳って、薬のんでもすぐにはとまりません。
理由① 咳は体の防御反応の1つであり、薬ですぐに止めることはできません。
咳は、気道にある異物や細菌・ウイルス、痰などを体外に排出しようとする正常な生体の防御反射です。咳を出すことで病気を治そう、治そうとしているのです。咳を無理に止めることは体の防御反応を妨げ、病気をこじらせることにもなりかねません。ふつうのカゼの咳なら、10~2週間で治まります。
理由② 「咳が出る時は、咳止め薬を飲みなさい」と記載のある正式な小児科の医学書、論文はありません。
咳止め薬が小児に効果があったという医学的研究・データもありません。
咳止め薬で小児の咳を抑えられたという、科学的・医学的な研究データはありません。
逆に、「咳止め薬を飲んだグループ」と「咳止め薬を飲まなかったグループ」を比較して、
咳が出る期間は変わらなかった(咳止めを飲んでも効果なし)という研究データがある程です。効果がないどころか、副作用だけが残ります。
咳止めではなく、痰を出しやすくし咳を切れやすくする薬はあります。
理由③ 咳嗽に関するガイドライン、小児気管支喘息ガイドライン
咳嗽に関するガイドラインには、
「中枢性鎮咳剤は、咳嗽の特異的治療にはなり得ない(特効薬なし)」、
小児気管支喘息ガイドラインには、
「中枢性鎮咳剤は呼吸抑制作用があるので、発作時には禁忌(使用禁止)」
と記載があります。かぜの咳は薬ではとめられません。その代わり、出しやすく切れやすくする薬は症状を和らげてくれます。
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2025.06.30第6回 「熱が高いし、カゼひいたので抗生物質ください」これって???
医療は常に進歩しています。昔は当たり前だったことが今はもう通用しないこともたくさんあります。
風邪薬ひとつとってもそうですし、抗生物質も昔は熱があれば飲むのが当然でしたが、今はそうではありません。
普通のカゼの原因はウイルスであり、抗生物質は効きません。
抗生物質が効くのは、細菌感染症です。とびひ等の皮膚の細菌性感染症・軽症でない中耳炎・溶連菌感染症・マイコプラズマ感染症・百日咳・重症の細菌性胃腸炎、二次性の細菌性感染症などであり、感染症でもかなり数は限られています。
以前は、「念のために」と言って抗生物質をのむことが多かったですが、抗生物質を続けると耐性菌(抗生物質が効かない菌)が蔓延し、その耐性菌がいざ悪さを始めたときに治療方法がないということになり、最悪の場合、命を落とすことになります。
以前は、カゼの時でも「肺炎・中耳炎にならないように」という理由で、抗生物質を出す病院もありましたが、抗生物質をのんでも肺炎・中耳炎等の重症化の予防になる、という医学的データや根拠はありません。
抗生物質を飲むと、腸内細菌が変化・死滅してしまい、下痢が出るのは以前からよく知られていますし、抗生物質をのんでる子は、飲まない子にくらべ、肥満・喘息・アレルギー・川崎病の発症リスクが高まることが最近の研究で指摘されることもあります。
当院では不必要な抗生物質は処方していませんのでご安心下さい。
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2025.06.16第5回 冷却ジェルシート(冷えピタ、熱さまシート等)
お熱が出た時に、氷枕や冷却ジェルシート(冷えピタ、熱さまシート等)を使うイメージがありますね。
大人が冷却ジェルシートをおでこに貼るとヒンヤリして気持ち良いですね。
ただし、お子さん、特に1歳未満の乳児のおでこに冷却シートを貼るのはやめましょう。シートがズレて鼻や口を塞いで窒息した事故例の報告があり危険です。
そもそも、おでこに貼っても熱を下げる効果はほとんどありません。
おでこには太い血管が通ってないからです。
もし貼るとしたら、太い動脈が通っている場所、例えば、
首の斜め前(頸動脈)
脇の下(腋窩動脈)
太ももの付け根(大腿動脈)
に貼るのがお勧めです。
入院の医療機関でもクーリングと言って、この場所に保冷剤を使うことがあります。
おでこは冷やしません。ただし、お子さんが嫌がるときは、無理に冷やさなくても大丈夫です。
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2025.06.01第4回 解熱剤(熱さまし)の使い方
お子さんが高熱を出したとき、解熱剤を使っていますか?
「熱さましを使っちゃダメ」と思っている親御さんが時々いらっしゃいますが、使ってもらって大丈夫ですよ。世界の有名な小児科の教科書には、カゼの治療の中で「安静と解熱剤」と書いてあるくらいです。
(ちなみに、咳止めと言われている薬は、外国ではふつうは使いません。日本には咳止めと言われている薬はありますが、名前だけで、咳を止めるエビデンスはまったくありません。)
また、逆に、熱さましは6時間間隔が空いたら次が使えるので、熱が出てる間は6時間おきに熱さましを使う親御さんも稀にいらっしゃいます。間違いではないですが、6時間たったからと言って眠っているお子さんを起こしてまで解熱剤を使う必要はありません。
40℃出たから脳に障害が生じる、ということはありません。
カゼの場合、発熱はウイルスと戦うための防御反応ですので、必ずしも下げる必要はありません。
しかし、わが子が熱を出しているのに、何かしてあげたいと考えるのが親心というものです。
ですので、解熱剤を使う目安として、次のようなお話をしています。・38.5℃以上で、元気がない時(水分が取りずらい時、眠りにくい時など)に使いましょう。
・38.5℃以上あっても、水分が取れていて、眠れていれば、急いで使う必要はありません。解熱剤は、使ったとしても必ずしも平熱になるわけではありません。1.0℃くらい下がったら効果があった思ってください。
解熱剤以外では、首元や腋を冷やしてあげるのはとても有効です。
熱の高さよりも、水分が飲めているか、呼吸の仕方が苦しくないか、顔色が悪くないか、ということの方が重症度に関わりますのでそれらが悪ければ病院受診してください。
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2024.08.30第3回熱中症
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2024.07.22第2回食中毒
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2024.05.24第1回花粉症
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2022.10.07ブログを公開しました
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